オーガニックな羽毛ふとんへの物語

1998:ゴミを出さない布団を販売しよう

ずいぶんと前の話です。 東京の粗大ごみの1番が寝具であるということを聞きました。

私の店は1890年創業で、元々は綿屋です。木綿のわたは昔から定期的に打ち直しをして仕立て直す、という文化がありました。

木綿わたは昔は貴重品でした。江戸時代は布団一組で家が建つといわれたぐらいです。貴重な原料を再利用するということが当たり前に根付いていたわけです。

ところが、木綿わたに代わって、ポリエステルわたや、羊毛わたにポリエステルわたを混ぜたものが急速に増えてきました。これらは打ち直しができません。寿命がきたら捨てるしかなかったのです。

1998年、環境に負荷をかけないグリーン購入という考え方があることを知って、その取り組みを寝具で始めました。日本で一番早かったと自負しています。

2007:グリーン購入大賞 大賞受賞
長く使う、再利用する、土に還る -眠りのプロショップSawadaの三原則

上質な良いものは長く使えます。木綿わたや羽毛ふとんは打ち直しやリフォームで再利用できます。使えなくなった最後は土に還るのであれば、ゴミになる寝具は確実に減るのです。

このような取り組みを行った結果、2007年にはグリーン購入大賞というアワードにおいて、中小企業部門で大賞をいただきました。(ちなみに大企業部門はパナソニックさん、環境大臣賞は滋賀銀行さんでした)

私たちが目指したのは、普段着のグリーン購入です。普通にお店で購入していただいたものが、三つの原則に沿ったものになるようにしたいと考えました。土に還るということは、天然素材100%であることが大切ですが、同時に、布団の本来の目的-快適な睡眠がとれることが重要です。

極力天然素材100%をめざしたいのですが、現実はウレタン素材など、どうしても使わなければならないものが残っていて、今後の課題となっています。

オーガニックであること=環境配慮のサスティナブル素材

2000年ぐらいから、毎年ヨーロッパの展示会へ行くようになりました。環境の先進地ドイツでは、オーガニックコットンが当たり前に使わるようになっています。SDGsとか言い出す、20年以上前の話です。

ヨーロッパの農場を見て回りましたが、オーガニックとしての認証が取れているかどうかは別にして、良質の天然素材を得るために、農家の皆さんが育てている方法は、基本的に自然の恵みを生かしたオーガニックな取り組みなのです。

私の店もオーガニックコットンの製品を増やし始めました。ところが、日本のオーガニックコットン製品は生成を基本としています。農薬を使わないので皮膚に安全だ、染料も使わない自然の色そのままが一番良い、というわけです。

ところがヨーロッパでは、オーガニックコットンは、農家の人々の健康や、農場のある地域の水質や土壌汚染を防ぐためのもの、という考え方です。環境に負荷のかからない染料や製法を使った、さまざまな色のオーガニックコットン繊維があるのです。

日本でこのような考え方でオーガニックコットンを進めていったのは、今治のイケウチオーガニックさんぐらいでしょう。安全な染料で、吸湿性の良いオーガニックコットンのタオルを生み出していました。

注:国産のオーガニックコットンのタオルは生成にこだわるためか油脂分が多く、吸湿性が悪いものが多いのです。以前に訪れた今治の仕上げ工場ではしゃぼん玉せっけんで最終の洗浄を行っていて、オーガニックコットンでも吸湿性が良いのだとアピールされていました。

閑話休題 ヨーロッパでは必要条件であるエコテックススタンダード100規格

安全な素材という視点ではエコテックススタンダード100という規格があります。日本ではようやく注目されてきましたが、ヨーロッパではオーガニックコットンの前に当たり前になっています。

スタイフというドイツのぬいぐるみメーカーの製品には、ずいぶん昔からエコテックススタンダードのマークがついていました。日本が優れているところもあるのですが、特に寝具やインテリア素材では、日本はまだまだです。

オーガニックコットンの羽毛ふとん生地を探す

オーガニックコットンは無農薬で手間ひま掛けて育てます。そのため、極細の超長綿とかは得られにくいのです。

羽毛ふとんのオーガニックコットン生地を探しましたが、細番手で軽くて柔らかい風合いのものが、なかなかありません。生地メーカーも、オーガニックコットンでは商売になりにくいのか、いつのまにかカタログから外れてしまうのです。

本当にオーガニックで育てられているか、という認証制度も国々でバラバラでした。一般にはオーガニック認証を得るためには、約3年間無農薬であった農場であることが必要です。それまではオーガニック認証を得ることができませんから、農家にとってはハードルが高いのです。

現在ではGOTS(Global Organic Texstyle Standard)という、オーガニック・テキスタイルに対する国際的な認証方法が一般化されています。

当社もドイツのIBENA社から仕入れている綿毛布はGOTS認証のオーガニックコットンを使っています。オーガニックコットンでありながら、カラフルなデザインが人気です。

Weidmann社TE135-GOTS

ドイツの老舗生地メーカーWeidmann社のTE135G

Weidmannという、ドイツの生地メーカーは、ある寝具企業の紹介で生地の仕入れを始めました。軽くて柔らかい、そんな良質な羽毛ふとん用生地を作る会社です。

2023年、ドイツの南部ズーセンという町にあるWeidmann社の工場を訪れました。

生地の仕上げには多くの水を使います。Weidmann社では、出来る限り環境への負荷を下げて、化学薬品を使わないような取り組みがなされています。そのための新しい設備も投入しています。

そこで紹介されたのが、オーガニックコットンの羽毛ふとん用生地TE135Gでした。GはGOTS認証の略です。

安くないし、最初は音もするけど、ぜひお使いいただきたい

90g/㎡と非常に軽く、通気性も良好なことから日本初となる導入を決定しました。正直、普通の生地の方が安いのです。しかもオーガニックコットンの風合いは少し硬めです。実際に羽毛ふとんを何か月か使いました。寝れてしまうと気にならなくなりますが、それでも当社の定番品の生地と比べると最初はカサカサ音がしやすいのは事実です。

ただ、長い目で見て、綿農家や環境への負荷低減はSDGsの目標にも沿った大切なことです。小さな会社ですが、だからこそ、オーガニックコットンの大切さを訴え、できるだけ普及させることが重要だと考えました。

当店のSB80生地に比べると、軽いというアドバンテージはあるものの、価格も安くありません、生地の音も大きめです。

それでも、多くの人に使っていただきたいと考えています。

2024年8月

眠りのプロショップSawada 店主 沢田昌宏 拝